#23 1982年11月4日

病気になった。病気をすると、いつものことながら、早く治って起きたい、外に出たいと、治ることばかり考えてしまう。

 ところが、もがいてももがいても、別に早くよくなるわけじゃなくて、逆に、体は思うようにならないということを思い知らされるばかりである。

 寝ながら、体はままならないなあ、と思っていた。と、指も腕も心臓も肺もお腹も、どこも、別にわたしではないんだなあ、と気づく。

 人間は、自分の体と感じているものに起こっていることを、統御できないのである。

 考えてみれば、体は、いわば大地と同じように、大自然の営みを続けているだけなのである。体内の細胞は、絶えまなく生死を繰り返し、体内で虫が生れたり、死んだり、バクテリアが生れたり、増えたり、体の細胞と闘ったり。

 体は、大地なんだわ。別に、主がいるわけじゃない。

 としたら、体のことは、体のあるがままにまかせるよりしょうがない。バクテリアも生き物なのだし、わたしの体が居心地いいなら、増えたらいいんだわ‥‥‥。

 わたしは、何かに抗がう気がまったくなくなって、ふとんの上にのうのうと身をのばした。

 ふかふかとしたふとんに、ゆったりと身をまかせていると、まるで、南の海に浮んでいるような感じである。波間にぽっかりと浮び、今、さんさんと陽を浴びている‥‥‥。ふっと、そんなふうに感じる。ああ、まかせきってしまえば、病気の床もお浄土なんだなあ。

 そう思うと、寝ながら見つめていた、古びた天井さえ、急に輝きをおびる。

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